#8『擬娩』

したため#8『擬娩』(ぎべん)

初演記録写真 撮影:守屋友樹


「擬娩」とは、妻の出産前後にその夫が妊娠にまつわる行為を模倣し、時には出産の痛みさえ感じているかのようにふるまうという習俗。この、あまりに奇妙で、あまりに演劇的な習俗に倣って、妊娠・出産を経験していない俳優たちが、想像力をよすがに、妊娠・出産を愚直にシミュレートする。
2019年の初演、2021年のKYOTO EXPERIMENTにおける再創作を経て、和田ながら/したための代表作が待望の東京再演。
分断に取り囲まれたわたしたちに残された手立ては、想像力の再起動だ。

演出|和田ながら
美術|林葵衣
出演|石原菜々子(kondaba) 岸本昌也 中筋和調(うさぎの喘ギ) 三田村啓示


演出より
もし、演劇とはなにか、と問われたら、わたしは、この『擬娩』という作品をひとつの回答として差し出すだろうと思う。いまのこの身体であることをやめないまま、この身体が経験していないできごとに向かってじたばたする、泥臭く滑稽な、しかしこれこそが、演技という行為の原理であり、そして、この原理を社会に埋め込んでおかねばならないという人間の切実さのかたちとして「擬娩」という習俗があったに違いない、と。
『擬娩』の初演からこっち、わたしは、嘘をつくためではなく、嘘をつかないでいられる方法として、演劇を考えようとしているのかもしれません。産むことへの無知も畏れも憧れも怒りも焦りも、すべてあらわに、妊娠・出産のリハーサルをします。三度目も正直に、「擬娩」を。

したため 和田ながら


「擬娩」とは…
これらの習俗は、子供の父が、子供の出産当時あるいはその以前又は産後のある期間、自分の床につき、節食に服して、しかも、その妻ではなくて、彼が分娩の苦痛を受けているかのごとく、一般に振舞うべき事を必要としている。その完全な形態においては、擬娩を遵奉する夫は、自分の床について、産褥にいるふうをし、時には、うめいたり、顔をしかめたりすることによって、分娩の諸々の苦痛を真似ることさえし、また時には、その妻の衣類を着ることさえある。

『擬娩の習俗』(著:ワーレン・アール・ドーソン/訳:中西定雄/1929年)より


初演の劇評より

本作の最大の特徴かつ秀逸な点は、(舞台やドラマ、映画などで手垢にまみれた)「感動的な出産のストーリー」を徹底的に排除し、その代わりに「妊娠・出産」を「私のこの身体に起こる、不快で理不尽な変容のプロセス」のコラージュ的な積み重ねとして描き切った点にある。
高嶋慈(美術・舞台芸術批評)「artscape」レビュー (大日本印刷発行、2020年1月15日号) より一部抜粋https://artscape.jp/report/review/10159403_1735.html

演劇は、〈経験と未経験のあいだの経験〉とでもいうべきものを促します。したためは、その特殊な経験を顕現させることを通じて、これまで存在したであろう(そしてこれから存在するであろう)無数の出産経験に対して、近づき、遠ざかり、眺め、触れ、撫で、触感や重さを確かめているようでした。まさに演劇=play=遊びです。
渡辺健一郎(俳優、批評家)「どうしようもなさとの戯れ」
演劇評論誌Act 27(国際演劇評論家協会日本センター関西支部、2020年6月30日)より一部抜粋
https://aictact2018.wixsite.com/website/drama-review


日程
|2023年2月9日(木)~12日(日)
9日(木) 19:00*1
10日(金) 14:00*2/19:00
11日(土) 14:00*3/19:00
12日(日) 14:00*4
*ポストパフォーマンストークあり
※受付開始・開場は開演の30分前

上演時間|約90分

ポストパフォーマンストークゲスト
*1:9日(木)19:00 林葵衣[美術家、本作美術担当]
*2:10日(金)14:00 やんツー[美術家、『擬娩』再創作版美術担当]
*3:11日(土)14:00 チーム・チープロ(松本奈々子、西本健吾)[パフォーマンス・ユニット]
*4:12日(日)14:00 稲継美保[俳優]、遠藤麻衣[俳優、アーティスト]

会場
こまばアゴラ劇場(〒153-0041 目黒区駒場1-11-13)
*京王井の頭線「駒場東大前」駅 東口より徒歩3分
*会場には駐車場・駐輪場がございませんので、お越しの際には公共交通機関をご利用ください。

料金
一般         前売 3,000円  当日 3,500円
25歳以下 前売 2,000円  当日 2,500円
*日時指定・全席自由
*開場時は当日受付順で、【劇場支援会員→一般予約】の順番でご入場いただきます。
  開場後は券種に関わらず、来場順での入場になります。
*25歳以下券の方は受付にて年齢を証明できるものをご提示ください。
*未就学児童はご入場いただけません。

ご予約開始日
劇場支援会員    12月10日(土)
一般                12月17日(土)11:00

チケット取扱窓口|

WEBフォーム(Corich)[当日精算]
https://ticket.corich.jp/apply/215849

Peatix[事前精算/各種クレジットカード・コンビニ/ATM 等]
https://shitatame-8-giben.peatix.com

メール[当日精算]
info.shitatame@gmail.com まで、希望公演日時/お名前/券種/人数/ご連絡先を明記の上メールをお送りください。こちらからの返信を以てご予約完了となります。

照明|吉田一弥
音響|甲田徹 林実菜
舞台監督|北方こだち
演出助手|堀井和也
制作|渡邉裕史(ソノノチ)
制作助手|永澤萌絵
フライヤーデザイン|岸本昌也 林葵衣
フライヤー写真|守屋友樹
引用テキスト|志賀理江子「亡霊」「志賀理江子 ブラインドデート 展覧会」(発行:T&M Projects[2018年3月])より

芸術総監督|平田オリザ
技術協力|黒澤多生(アゴラ企画)
制作協力|蜂巣もも(アゴラ企画)

企画制作|したため/(有)アゴラ企画・こまばアゴラ劇場
主催|(有)アゴラ企画・こまばアゴラ劇場

助成
文化庁文化芸術振興費補助金(劇場・音楽堂等機能強化推進事業)
独立行政法人日本芸術文化振興会
公益財団法人セゾン文化財団

京都芸術センター制作支援事業

お問合せ|info.shitatame@gmail.com(したため)


プロフィール

photo: Yuki Moriya

和田ながら|WADA Nagara
2011年2月に自身のユニット「したため」を立ち上げ、京都を拠点に演出家として活動を始める。美術家や写真家、音楽家、建築家など異なる領域のアーティストとも共同作業を行う。2015年、創作コンペティション「一つの戯曲からの創作をとおして語ろう」vol.5最優秀作品賞受賞受賞。2018年、「こまばアゴラ演出家コンクール」観客賞受賞。2019年より地図にまつわるリサーチプロジェクト「わたしたちのフリーハンドなアトラス」始動。セゾン文化財団2021-22年度セゾン・フェロー。


photo: Yuki Moriya

林葵衣 HAYASHI Aoi
1988年京都府生まれ。2013年京都造形芸術大学修士課程修了。音声をはじめとする身体のふるまいに独自の形を与え提示している。主な個展に2022年「息骨に触れる」KUNST ARZT(京都)、2020年「息差しの型取り」+2(大阪)、「遊動躰」Gallery PARC(京都)など。2020年度第4期常設展「画家の痕跡」 高松市美術館(香川)、2018年「VOCA展」上野の森美術館(東京)に参加。2022年第1回白髪一雄現代美術賞、2015年第63回芦屋市展吉原賞を受賞。


石原菜々子 ISHIHARA Nanako
東京都足立区にて育つ。高校卒業後、東京の小劇場にて活動。 2012年に劇団維新派『夕顔のはなしろきゆふぐれ』に出演。同年11月、維新派に入団し大阪に移住。2017年解散まで全ての作品に出演する。 2018年より元維新派の金子仁司と共に kondaba を旗揚げ。都市の中に上演場所を探し、その場所が持つ規則や制約、身体との関係性に着目し演劇作品を創作する。その他に、Monochrome Circus、akakilike、極東退屈道場、ピンク地底人3号などの作品にも出演。「都市」「移動」「あそび」をテーマに自身の創作も行う。手話勉強中。


岸本昌也 KISHIMOTO Masaya
滋賀県出身・在住。京都造形芸術大学情報デザイン学科卒。座・高円寺劇場創造アカデミー修了。俳優として、地点、エイチエムピー・シアターカンパニー、したためなどの作品に出演。自身の出自である神楽の身体性を使い、パフォーマンス作品を発表するとともに、古典芸能・郷土芸能のリサーチを行う。京都瓜生山舞子連中所属。また、グラフィックデザイナーとして演劇のチラシや、劇場の広報物などを作成し、『広がるフライヤー』(ビー・エヌ・エヌ新社)に作品が掲載される。


2021年11月 うさぎの喘ギ『いみいみ』撮影:小嶋謙介

中筋和調 NAKASUJI Natsuki
1996年生まれ。大阪府吹田市出身。うさぎの喘ギに所属し俳優と制作を担当。身長152cm。最終学歴は京都大学大学院修士課程修了。会話劇を中心に外部出演も行う。ちょっと疲れたのでこちらの公演をもって俳優としての活動はしばらく休業予定。最近よく聞く音楽はSnail's houseの曲。宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』を20冊以上、内田百閒の全作品集を2セット所有している。


撮影:永田晶子

三田村啓示 MITAMURA Keiji
主に関西圏を中心に活動。ジャンル・地域を問わず、俳優として様々な演出家・劇作家との創作に参加。第18回関西現代演劇俳優賞受賞。公益社団法人日本劇団協議会機関紙『join』99号特集記事「私が選ぶベストワン2020」において、毎日新聞大阪本社学芸部・畑律江氏のベスト1助演俳優に選出。また、過去には明倫art(京都芸術センター発行)の演劇レビュー執筆、大阪アーツカウンシル・アーツマネージャー、伊丹AI・HALL次世代応援企画 break a leg 選考委員、近年では大阪の老舗小劇場・ウイングフィールド主催のコンペティション・WINGCUPの審査員を務めるなど、活動は多岐に渡る。


ポストパフォーマンストークゲスト プロフィール

10日(金)14:00
やんツー
1984年、神奈川県生まれ。先端テクノロジーが持ちうる公共性を考察し、それらがどのような政治性を持ち、社会にどう作用するのか、又は人間そのものとどのような関係にあるかを「介入」する行為をもって構築した作品によって、批評する。国内外の美術館やギャラリーで作品を発表する他、和田ながら演出による演劇作品の舞台美術や、contact Gonzoとのパフォーマンス作品など、コラボレーションも多く手掛けている。
http://yang02.com

11日(土)14:00
チーム・チープロ
パフォーマンス・ユニット。2013年結成。身体や身振りの批評性をテーマに活動してきた。作品ごとにチームをつくり、制作を行う。近年は、個人の記憶と集団の記憶を、「身体」を媒介に記録し再構成することに関心を寄せている。主な作品に、『20世紀プロジェクト』(2017-2018)、『皇居ランニングマン』(2019-21)、『京都イマジナリー・ワルツ』(2021)、『女人四股ダンス』(2022)など。
https://www.chiipro.net

12日(日)14:00
稲継美保
1987年生まれ。俳優。東京藝術大学在学中より演劇を始め、舞台•アートプロジェクトを中心にフリーランスで活動中。これまでに、サンプル、チェルフィッチュ、岡崎藝術座、ミクニヤナイハラプロジェクト、バストリオ、オフィスマウンテン、東葛スポーツ、坂田ゆかり、篠田千明などの作品に出演。また、2019年にはポーランドとの国際協同製作で演出家マグダ・シュペフト「オールウェイズカミングホーム」に出演するなど、国内外問わず幅広い役柄をこなし、枠にとらわれない活動を行っている。

遠藤麻衣
1984年生まれ。身体を通じたおしゃべりやDIY、演技といった遊戯的な手法を用いる。民話や伝説といった史料や、ティーン向けの漫画やファンフィクション、婚姻制度や表現規制に関する法律など幅広い対象の調査に基づき、クィア・フェミニスト的な実践を展開している。主な個展に、「燃ゆる想いに身を焼きながら」愛知県立芸術大学サテライトギャラリー SA・KURA(愛知、2021)。主なグループ展に、「フェミニズムズ」金沢21世紀美術館(石川、2021)、「ルール?」21_21 DESIGN SIGHT(東京、2021)など。2018年に丸山美佳と「Multiple Spirits(マルスピ)」を創刊。2022年文化庁新進芸術家海外研修制度でニューヨーク滞在。
https://maiendo.net/


上演データ

したため#7『擬娩』

演出|和田ながら
美術|林葵衣
出演|岸本昌也 増田美佳 松田早穂(dracom) 三田村啓示

京都公演 [ THEATRE E9 KYOTO オープニングプログラム ]
日程
|2019年12月6日(金)~9日(月)
会場|THEATRE E9 KYOTO

沖縄公演 [ アトリエ銘苅ベース提携カンパニー公演 ]
日程
|2019年12月13日(金)~15日(日)
会場|アトリエ銘苅ベース

主催|したため

KYOTO EXPERIMENT 2021 AUTUMN
和田ながら×やんツー『擬娩』

演出|和田ながら
美術|やんツー
出演|石川大海 オサム 岸本昌也 杦本まな保 松田早穂 (dracom)

日程|2021年10月16日(土)・17日(日)
会場|京都芸術センター 講堂

製作|KYOTO EXPERIMENT (再創作版)
主催|KYOTO EXPERIMENT

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